郁太郎いくたろう)” の例文
その晩、炉の前で、数え年四歳よっつになる郁太郎いくたろうを、その巨大な膝に抱きあげている与八に向って、お松が、こんなことを言いました
大菩薩峠:31 勿来の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
益斎は時に年三十二。妻磯貝いそがい氏貞との間に既に三人の子があった。伯は通称郁太郎いくたろう後に貞助また九蔵。名は監、字は文郁、号を毅堂きどうという。しかしこの年にはまだ十一歳の小児である。次は女子某。
下谷叢話 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
与八と郁太郎いくたろうを除いた武州沢井の机の家の留守の同勢は、あれから七兵衛の案内で、無事に洲崎すのさきの駒井の根拠へ落着くことができました。
大菩薩峠:32 弁信の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
郁太郎いくたろうを育ててみると、その苦しみのうちに、いうにいわれぬ楽しみがあって、子供というものはほんとうに可愛いものだと身にみています。
大菩薩峠:22 白骨の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
背には郁太郎いくたろうをおぶって、手には風呂敷包をひもからげて提げ、足は草鞋わらじ穿いて、歩きながら時々涙をこぼしています。
大菩薩峠:02 鈴鹿山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
男は机竜之助で、女はお浜で、子供というのは二人の中に去年生れた郁太郎いくたろうで、この三人が住んでいるのは、芝新銭座の代官江川太郎左衛門の邸内のささやかな長屋です。
もちろん、その通りです——ある晩のこと、例の如く伊太夫は、与八が米をきながら郁太郎いくたろうに文字を教えている納屋なやの中へ話しに来たついでに、こういうことを言いました——
大菩薩峠:35 胆吹の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
竜之助は横になったまま、郁太郎いくたろうに乳をのませている差向さしむかいの炬燵越しにお浜を見て
大菩薩峠:02 鈴鹿山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
それから、もう一つ——与八が内心の恐れ、というよりは、内心の責務に責められて、これを怠ってはならないと絶えず鞭打たれているような心持の一つに、郁太郎いくたろうの教育のことがあります。
大菩薩峠:40 山科の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
郁太郎いくたろうと書いてあったようです、郎という字かと思いましたが、郎太郎という名前もないでしょうから、あれは郁太郎——つまり親が与八で、子が郁太郎、それが私に代って、父の家を引きついで
大菩薩峠:40 山科の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
郁太郎いくたろう背負おぶったなりで与八は和尚の傍へ坐り込んで
「お子さんというのは、あの郁太郎いくたろうさんのことだろう」
大菩薩峠:29 年魚市の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
与八の背には郁太郎いくたろう温和おとなしく眠っています。
郁太郎いくたろうを投げ出して竜之助の脇差を取るより
「坊の名は郁太郎いくたろう……」
大菩薩峠:05 龍神の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)