逸民いつみん)” の例文
要するに主人も寒月も迷亭も太平たいへい逸民いつみんで、彼等は糸瓜へちまのごとく風に吹かれて超然とすまし切っているようなものの、その実はやはり娑婆気しゃばけもあり慾気よくけもある。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
本をひろげて見たり、い加減な文章を書いて見たり、それにも飽きると出たらめな俳句を作つて見たり——要するにまあ太平の逸民いつみんらしく、のんべんだらりと日を暮してゐたのである。
東京小品 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
それをわれわれは自分たちと全然縁のない昔の逸民いつみんの空想だと思っていた。
古寺巡礼 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
だいじにかかえて、時勢のそとに遊んでいる上等な逸民いつみんという者だろう
宮本武蔵:05 風の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
余のごときは黄巻青帙こうかんせいちつあいだ起臥きがして書斎以外にいかなる出来事が起るか知らんでも済む天下の逸民いつみんである。平生戦争の事は新聞で読まんでもない、またその状況は詩的に想像せんでもない。
趣味の遺伝 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)