農夫ひゃくしょう)” の例文
私がかつて、逗子ずしに居た時分その魔がさしたと云う事について、こう云う事がある、丁度ちょうど秋の中旬はじめだった、当時田舎屋を借りて、家内と婢女じょちゅうと三人で居たが、家主やぬしはつい裏の農夫ひゃくしょうであった。
一寸怪 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
浅々と青く萌初もえそめた麦畠むぎばたけの側を通りますと、丁度その畠の土と同じ顔色の農夫ひゃくしょうくわを休めて、私共を仰山らしくながめるのでした。北国街道は小諸へ入る広い一筋道。其処そこまで来れば楽なものです。
旧主人 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
よし帰った処が農夫ひゃくしょうになるだけの事、じつうしても出家はげられんか
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
恰度ちょうど私が湯殿から、椽側えんがわを通って茶の間へ入った頃で、足に草履ぞうりをはいていたから足音がしない、農夫ひゃくしょう婆さんだから力があるので、水の入っている手桶を、ざぶりとも言わせないで、そのままげて
一寸怪 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)