轗軻かんか)” の例文
先生此逆境に立ちて、隻手羅曼ロマン主義の頽瀾たいらんを支へ、孤節こせつ紅葉こうえふ山人の衣鉢を守る。轗軻かんか不遇の情、独往大歩の意、ともに相見するにへたりと言ふ可し。
「鏡花全集」目録開口 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
だが轗軻かんか不遇とやらで、まだいっぺんも真剣の場合にのぞんだことがないのを常から嘆じていたところだ。
鳴門秘帖:01 上方の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
師の陣風斎という人は、実際轗軻かんか不遇の士。考えれば考える程気の毒で成らなかった。斎藤弥九郎さいとうやくろう千葉周作ちばしゅうさく桃井春蔵ももいしゅんぞう、それ等の剣道師範に比べて、敢て腕前は劣らぬのだ。
死剣と生縄 (新字新仮名) / 江見水蔭(著)
宗演師に会って、色々と自分の不遇・不幸を訴えたと見える、即ち或る宗教者は有福なブル的生活をして居るのに、自分は轗軻かんか不遇、今日の衣食にすら窮すると云う不平であったらしい。
釈宗演師を語る (新字新仮名) / 鈴木大拙(著)
彼が生路せいろはおおむね平滑なりしに、轗軻かんか数奇さっきなるはわが身の上なりければなり。
舞姫 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
「素直な鼻つきでございますこと。円満鼻と申します。これも変えなければいけますまい。親に別れ良人おっとに別れ、生涯住所定まらず、轗軻かんか不遇に世を送る、鷹嘴鼻ようしびに変えることに致しましょう」
神州纐纈城 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
是れ彼が無惨の死に終りし動力モチイブなり、源因なり、伏線なり。別言すれば彼は術語の罪過を犯せしものなり。孔子の饑餓きがくるしめられしことあるも、孟子まうし轗軻かんか不遇に終りしも、帰する所は同一理なり。
罪過論 (新字旧仮名) / 石橋忍月(著)
彼が生路はおほむね平滑なりしに、轗軻かんか数奇さくきなるは我身の上なりければなり。
舞姫 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)