負傷者ておい)” の例文
し其処のが負傷者ておいなら、この叫声わめきごえを聴いてよもや気の付かぬ事はあるまい。してみれば、これは死骸だ。味方のかしら、敵のかしら。
今の野原では、むこうに小さく人かげがかたまって、負傷者ておいに応急の手当てをし、下山の道をつづけるらしい。こっちへ来る気はいはない。
煩悩秘文書 (新字新仮名) / 林不忘(著)
そうしてここの地点から、陣十郎の姿も消えていて、霜の下りたような月光の中に、のたうっている二人の負傷者ておいが、地面を延びつ縮みつしていた。
剣侠 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
月の光を浴びて身辺処々ところどころさんたる照返てりかえしするのは釦紐ぼたんか武具の光るのであろう。はてな、此奴こいつ死骸かな。それとも負傷者ておいかな?
その、烈火の影、黄色く躍る熱沙ねっさの土をふんで、一団の人かげが刀を杖つき、負傷者ておいをかばって遠く宿を離れ、常州じょうしゅうをさしてひた走りに落ちのびていた。
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
「南無三宝! 方々待たれい! 火の光が見える、何者か来る! 目つけられては一大事! 残念ながら一まず引こう! 味方の死人負傷者ておいを片付け、退散々々方々退散」
仇討姉妹笠 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
ほとんど一筋の空矢からやもなく、わずかの間に千人あまり、寄せ手は死人と負傷者ておいとを出した。
あさひの鎧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
ひとしきり展開ひろがったがやがて止み、雨にぬれ足に踏まれしどろに乱れた、芒や萱や藺草いぐさの中に、三本の脚がころがってい、三人の負傷者ておい半分なかば死んで、それが捨てられて燃えている
血煙天明陣 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)