谿間たにあひ)” の例文
ばう谿間たにあひの崖に臨むで建てかけた新建しんたちで、崖の中程からによつきりときあがつて、欄干らんかんの前でぱつと両手をひろげたやうなかへでの古木がある。
茸の香 (新字旧仮名) / 薄田泣菫(著)
茶屋は断崖だんがいに迫つて建つてゐるので、深い谿間たにあひと、その谿間を越えて向うの山巒さんらんを一目に見ることが出来る。谿間は暗緑の森で埋まり、それがむくむくと盛上つてゐるやうに見える。
仏法僧鳥 (新字旧仮名) / 斎藤茂吉(著)
皆がぶつぶつぼやいてゐるのを見ると、わざと元気をつけて向ふの谿間たにあひを指ざした。
実をいふと、兎はその朝先発隊が、動物園で買ひ取つて来て、わざ/\谿間たにあひへ伏せておいたもので、これまでだつて市の費用で飼はれてゐた、言はば市役所の連中れんぢゆうとは兄弟分の仲だつた。