谿谷たにあい)” の例文
捨吉兄弟のことを心配して女の一人旅を思立って来たというお母さんが、やがて復た独りで郷里くに谿谷たにあいの方へ帰って行くことも思われた。
桜の実の熟する時 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
この山の背後蒲田川の谿谷たにあい、二里四方もある大盆地に、立派な窩人町を建てましてね、そこに君臨しているのです。決して嘘じゃあありません。もし何んならご案内しましょう。
八ヶ嶽の魔神 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
深い谿谷たにあいの空気にまれたお母さんの頬の皮膚の色は捨吉が子供の時分に見たまま、まだ林檎りんごのような艶々つやつやとした紅味も失われずにあったが。
桜の実の熟する時 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
血生臭ちなまぐさい事ばかりが行われたが、八方山に囲まれた木曽の谿谷たにあい三十里は、修羅しゅらちまたを懸け離れたおのずからなる別天地で、春が来れば花が咲き夏が来れば葉が茂り、きわめて長閑のどかなものであった。
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
三日目の昼頃辿たどり着いたのは「つづみほら」の谿谷たにあいで、見ると小屋が建っていた。
八ヶ嶽の魔神 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)