詰襟服つめえりふく)” の例文
顎鬚あごひげ綺麗きれいに削り、鼻の下のひげを短かく摘み、白麻の詰襟服つめえりふくで、丸火屋まるぼやの台ラムプの蔭に座って、白扇はくせんを使っている姿が眼に浮かぶ。
父杉山茂丸を語る (新字新仮名) / 夢野久作(著)
シンガポール邦字雑誌社の社長で、南洋貿易の調査所を主宰している中老人が、白の詰襟服つめえりふくにヘルメットをかぶって迎えに来て呉れた。
河明り (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
三谷がドアを叩くと、十五六歳の、林檎の様な頬をした、詰襟服つめえりふくの少年が取次に出た。名探偵の小さいお弟子である。
吸血鬼 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
すると誰もいないと思っていた扉が急に開いて、その向うから突然四五人の詰襟服つめえりふくの男が現われ、僕の顔を見ると
鍵から抜け出した女 (新字新仮名) / 海野十三(著)
黒の、ボタンも黒のだぶだぶな詰襟服つめえりふくを著ていて、眼のクリクリした、熊の子のような可愛い顔つきをしている。私は振り返って走ってゆく自転車の後姿を見送った。
西隣塾記 (新字新仮名) / 小山清(著)
ずっと前に、私どもが滝野川たきのがわへ散歩した時、まだ詰襟服つめえりふくの井上氏を連れて、掛茶屋かけぢゃやに休んでいられるのにお会いしたことなどもありますから、古いお知合だったのでしょう。
鴎外の思い出 (新字新仮名) / 小金井喜美子(著)
詰襟服つめえりふくの弦三が、のっそり這入はいってきた。なんだか、新聞紙で包んだ大きなものを、小脇にかかえていた。
空襲葬送曲 (新字新仮名) / 海野十三(著)
玄関の呼鈴を押せば、直ぐさまドアがあいて、林檎りんごのようなっぺたをした詰襟服つめえりふくの愛くるしい少年が顔を出した。これも「吸血鬼」事件でおとなも及ばぬ働きをした少年助手小林である。
人間豹 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)