襁褓おむつ)” の例文
順一が顔を渋めてると、おしっこだ、襁褓おむつを取代えてやれ、と竜子へ云いつけた。一日置きには風呂を沸かさせて、自分で入れてやった。
幻の彼方 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
妻君は湯タンポを入れ換え、襁褓おむつをひきだし、亭主のほうは裸の胸へ彼の足をおしつけて体温で温めようと一心になっていた。
黒い手帳 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
「そりゃそうさ。母親が早く亡くなっちゃったから、あかんぼのうちから襁褓おむつを自分で洗濯して、自分で当てがった」
老妓抄 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
私の父は、その頃、曽祖父の創業した、工業会社の重役をしており、私の母は、上品なきれい好きの江戸っ子であったから、私の襁褓おむつは常に清潔でさらさらしていたらしい。
灰色の記憶 (新字新仮名) / 久坂葉子(著)
絶壁の躑躅つつじと見たは、崩れた壁に、ずたずたの襁褓おむつのみ、猿曵さるひきが猿に着せるのであろう。
陽炎座 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
みるみるうちに数人の人夫が財宝を庭に出しはじめた。金銀銭紙幣数百万、真珠瑪瑙めのうの類数百斛ひゃくこくまくすだれ、榻類これまた数千事。そしてこども襁褓おむつや女のくつなどは庭や階段にちらばって見えた。
続黄梁 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
『この四月ですの……それに、これとその亡くなつた子の間には、八年、間があつて出来た子なんですから、何だか、手持無沙汰で、忘れられなくつて困つてゐますよ。時々襁褓おむつなんか出して、泣いたり何かしてゐるんですよ』
ある日 (新字旧仮名) / 田山花袋田山録弥(著)
赤い更紗の風呂敷(これは今は東京ではめつたに見られない、風呂敷として染めて重に赤地へ黒と白との模樣があるもの)それから襁褓おむつといふものが軒下に干されてある……といふやうな錯雜した景色の後ろに——大阪風の棟數むねかずの多いごたごたした屋根の群の上に遙に聳やぎ立つ物干ものほしが見える。
京阪聞見録 (旧字旧仮名) / 木下杢太郎(著)
秋子が半身を起して、襁褓おむつを取代えてやってる所だった。彼はがばとはね起きた。それから牛乳を沸して飲ましてやった。
幻の彼方 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
「そりゃそうさ。母親が早く亡くなっちゃったから、あかんぼのうちから襁褓おむつを自分で洗濯して、自分で当てがった」
老妓抄 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
そして後で、常蒲団や襁褓おむつを届けて来た。看護婦の蒲団は病院で借りることにした。
生と死との記録 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)