褪色たいしょく)” の例文
女は蒔絵まきえ文筥ふばこを持っていた。その文筥はかなり古びたもので、結んだしでひもも太く、その紫の色もすっかり褪色たいしょくしていた。
葦は見ていた (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
暗灰色の密雲みつうんは、みっしりと空をめ、褪色たいしょくした水彩画のようなあたりには「豊さ」というものは寸分も見出せなかった。
自殺 (新字新仮名) / 蘭郁二郎(著)
殊に今日まで褪色たいしょくもしないでいる紺青臙脂えんじの美は比類がない。アニリン剤の青竹や洋紅に毒された世界近代の画人は此の前に愧死きしするに値する。
美の日本的源泉 (新字新仮名) / 高村光太郎(著)
甲州の勢いも、はや落日の褪色たいしょくをあらわして来たではないか。——われから求めもせぬ質子ちしを、送りかえして来たことは、われに寄せる甲州の媚態びたいでなくて何であろうぞ。
新書太閤記:06 第六分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
有色物質を粉末にすると次第に褪色たいしょくするという事実が引用されているのもおもしろい。つまり、彼の考えではいっそう細かく分割して元子まで行けば無色になると言うつもりらしく読まれる。
ルクレチウスと科学 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
古い大芸術家たちののこしたレコードは、吹込みの良否にかかわらず尊いものであり、後世に遺された大きな賜物であること、剥落褪色たいしょくしても、ミケランジェロや雪舟の絵の尊いのと同じことだ。
一、植物標本褪色たいしょく調査の件
ポラーノの広場 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)