裾前すそまえ)” の例文
外部ではにぎこぶしで続けさまに戸をたたいている。葉子はそわそわと裾前すそまえをかき合わせて、肩越しに鏡を見やりながら涙をふいてまゆをなでつけた。
或る女:1(前編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
君江は黙って、暫くの間老人のなすがままになっていたが、やがて静にベンチから立上り着物の裾前すそまえを合せ、びんでながら、「すこし歩きましょう。」と連立って石段を降りる。
つゆのあとさき (新字新仮名) / 永井荷風(著)
ほんのり上気した額に、おくれ毛がへばりついて、乱れた裾前すそまえ吐く息も熱そうだ。
つづれ烏羽玉 (新字新仮名) / 林不忘(著)
葉子は裾前すそまえをかばいながら車から降りて、そこに立ちならんだ人たちの中からすぐ女将おかみを見分ける事ができた。
或る女:2(後編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
あわせ袖口そでぐち裾前すそまえから静に夜風の肌をでる心持。
つゆのあとさき (新字新仮名) / 永井荷風(著)
部屋へやの中の暖かさに引きかえて、湿気を充分に含んだ風は裾前すそまえをあおってぞくぞくと膚にせまった。
或る女:2(後編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)