螇蚸ばった)” の例文
それには蜻蛉とんぼや、螇蚸ばったや、蝉や、蝸牛かたつむりや、蛙や、蟾蜍ひきがえるや、鳥や、その他の絵が何百となく、本物そっくりに、而も簡明にかかれてあった。
元来、よほど以前に出来た建物なので、壁は雨と埃にまみれてドス黒く汚れ、窓硝子はさんざんに砕け落ちて、螇蚸ばった蟋蟀こおろぎの住家になっていた。
魔都 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
「どうだ、螇蚸ばった蟷螂かまきり、」といいながら、お雪と島野をかわがわる、笑顔でみまわしても豪傑だからにらむがごとし。
黒百合 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
加世子は女中と顔を見合わせ、くすくす笑っていたが、銀子も話は好きで、「大地」の中に出て来る農民の土への執着や、螇蚸ばったの災害の場面について無邪気に話したりした。
縮図 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
既にその時もあれじゃ、植木屋の庭へこの藁草履を入れて掻廻かきまわすと、果せるかな、螇蚸ばった蟷螂かまきり
黒百合 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
図213は螇蚸ばったで、かなりよく出来ているが、こんな物にあってすら脚の数は正しく、そして身体の適当な場所から出ている。図214の蜻蛉も、かなりな出来である。
竹中は伯母さんから、瓶に一杯入れた煮た螇蚸ばったを、御飯につけてお上りとて貰った。ドクタアと私とはそれを何匹か食って見たが、小海老に似た味で、中々美味だった。
もがくない、螇蚸ばった、わはは、はは、」多磨太は容赦なくそのいわゆる小羊を引立ひったてた。
黒百合 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
七兵衛は螇蚸ばったのような足つきで不行儀に突立つったつと屏風の前を一跨ひとまたぎすぐに台所へ出ると、荒縄には秋の草のみだれざき、小雨が降るかと霧かかって、帯の端衣服きものすそをしたしたと落つるしずくも、萌黄もえぎの露
葛飾砂子 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)