藪山やぶやま)” の例文
「お侍だよ。藪山やぶやまの加藤っていえば、おっ母が知ってるといった。——ああ、それから、達者で暮しているかって、おらの頭を撫でて訊いたよ」
新書太閤記:01 第一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
又七郎は益城ましき小池村に屋敷地をもらった。その背後が藪山やぶやまである。「藪山もつかわそうか」と、光尚が言わせた。又七郎はそれを辞退した。竹は平日もご用に立つ。
阿部一族 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
「それにいるのは、藪山やぶやまの叔母御ではないかな——母上、あれなる後家どのは、中村の光明寺の山にいた叔母御でしょう」
新書太閤記:03 第三分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「おまえの母の妹は、ようわしの屋敷へは遊びに見える。帰ったら、母へよろしくいってくれ。藪山やぶやま加藤弾正かとうだんじょうが、お達者に——というていたとな」
新書太閤記:01 第一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
寺入り証人の加藤家は、この藪山やぶやまのすそなので、晩になると、僧の一人は、日吉に飯を与えて、山から連れて降りた。
新書太閤記:01 第一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
戦国以後に発達した平城ひらじろとちがい、極めて旧式な——土豪時代のとりでなので、ほりめぐらしてないし、従って城壁も見えない。唐橋もない。ただ、ばくとした一面の藪山やぶやまであった。
宮本武蔵:06 空の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
藪山やぶやまのやしきへ、叔母を頼って行った日、猫が飯をたべているのを眺めて、沁々しみじみうらやましく眺めながら、自分の空腹すきばらには、一わんの冷飯も与えられないのを、天地にかこったこともある。
新書太閤記:03 第三分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)