薬袋やくたい)” の例文
旧字:藥袋
面壁イ九年とやら、悟ったものだとあ折っていたんだがさ、薬袋やくたいもないことがいて来て、お前様ついぞ見たこともねえ泣かっしゃるね。
琵琶伝 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「ヘ、ヘ、ヘ」とまた思出して冷笑あざわらッた……が、ふと心附いてみれば、今はそんな、つまらぬ、くだらぬ、薬袋やくたいも無い事にかかわッている時ではない。
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
我れ今まで薬袋やくたいもなき小説を油汗にひたりて書き来りしが、これよりはた如何にすべき、我が筆は誠におさなし
二葉亭四迷の一生 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
「例のって、わしは知らないよ。口さえあれば飲めるのに薬袋やくたいもないものを発明する坊主さね」
ぐうたら道中記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
薬袋やくたいとも言わず、何事もなく素通りをしてしまったのですが、その一行は山科方面から来たには来たが、六地蔵の方へ向けて行くかと思うとそうでなく、米友の眼の前を素通りして
大菩薩峠:41 椰子林の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
幕府と阿部家とに献ずるものは、薬袋やくたいに題する屠字の右肩に朱点を施して糅雑じうざつすることからしめた。調合をはれば、柏軒が門人等を神田大横町の蕎麦店今宮へて往き、蕎麦を振舞つた。
伊沢蘭軒 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
またこういう事も有る※ふと気がかわって、今こう零落していながら、この様な薬袋やくたいも無い事にかかずらッていたずらに日を送るをきわめのように思われ、もうお勢の事は思うまいと
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)