莫迦者ばかもの)” の例文
「ぜひもないが……はてさて、身をわきまえぬほど始末のわるい者はないの。山の高さも知れぬ無智をもって山にとりつく莫迦者ばかものがあるかっ」
剣の四君子:05 小野忠明 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そのつれ ああ云ふ莫迦者ばかものは女と見ると、悪戯いたづらをせぬとも限りません。幸ひ近くならぬ内に、こちらの路へ切れてしまひませう。
往生絵巻 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
それに私は、彼女と結婚した——愚鈍ぐどんな卑屈な、目の見えぬ莫迦者ばかものだつたのだ。私は! 私の罪は、——いや、誰に話しをしてゐるか忘れないやうにしなければ。
何と私は莫迦者ばかものあつかいされたことか。ああ、それで読めた。外科手術の大家たる瀬尾教授と彼女が並んで歩いていたのも、その脚の移植手術を教授に頼んだものに違いない。
大脳手術 (新字新仮名) / 海野十三(著)
莫迦者ばかもののミシフォロが負けて大袈裟おおげさな呻声を発したのだ。
光と風と夢 (新字新仮名) / 中島敦(著)
莫迦者ばかもの、そのざまは何だ。」
野に臥す者 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
然るところ、今朝に及び、北畠殿には、はや御当家と、お手切れの覚悟あると聞き、さてはと、ほぞを噛みましたものの、もはやどうもなりませぬ。……実に、拙者は、莫迦者ばかものでござりまする
新書太閤記:10 第十分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
彼女が身分のいやしい者と結婚した時にも良人は一族の者が彼女あれと縁を切ると云ふのに反對したんだよ。そして彼女がくなつたといふ報らせが來た時には、あの人はまるで莫迦者ばかもののやうに泣いたのさ。
莫迦者ばかもの退かぬか。」
野に臥す者 (新字新仮名) / 室生犀星(著)