苦渋くじゅう)” の例文
旧字:苦澁
このような苦渋くじゅうな哲学が早くも少年時代の彼の中に芽ばえなければならなかったことを、『はつ恋』一編はありありと示しています。
「はつ恋」解説 (新字新仮名) / 神西清(著)
だが、そういう苦渋くじゅうな様子はほんのちょっと現われるだけで、すぐまた、元の陽気な馴々しい「タイメイ」さんにかえるのである。
石ころ路 (新字新仮名) / 田畑修一郎(著)
言い抜けらしい苦渋くじゅうは見えぬせいか、道誉も左近も「……では」と、得心の色をなごませて、やっとその場は事なきをえたものだった。
私本太平記:01 あしかが帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
弟というのは安宅先生のあの中性型の美人の顔を、横着に、そして神経質な苦渋くじゅうをも加えた、いくらか奇怪な趣のある青年でした。
生々流転 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
私が私でしかないことの苦渋くじゅうは、そして、そのたびに私にかえってきた。私は、ただそれだけを、深めているような気もする。
軍国歌謡集 (新字新仮名) / 山川方夫(著)
それを呟くとき、蟹江四郎の顔はいつもややゆがみ、表情もいくらか苦渋くじゅうの色をたたえてくるようです。
Sの背中 (新字新仮名) / 梅崎春生(著)
それで、今度は一歩踏み込んで、頭上に向けると、そこには、醜い苦渋くじゅうな相貌をした三人の男の顔が現われた。法水はそれによって、いっさいを知ることが出来たのである。
黒死館殺人事件 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
和助の顔には苦渋くじゅうの色がアリアリときざみ付けられました。