胚子はいし)” の例文
書くならばできるだけほんとうの径路を科学的に書く事によってすべての人の頭の奥に潜む罪の胚子はいしに警告を与えるようなものにしたい。
一つの思考実験 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
わたしはいずれにしても、あなたをこの上もない高潔な方として、いや、それどころか、寛大というものの胚子はいしを持った方として、尊敬しておるのです。
いや、人間は存在しなくとも、人間の胚子はいし、或いは精虫といったようなものは存在していたに相違ない。
大菩薩峠:26 めいろの巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
バーナード・ショウのごときも「人と超人」で、女性は魅力にって男から種の胚子はいしを奪い取り
女性崇拝 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
これが大事な胚子はいしとなって、あのすばらしい世界革命がひき起こされたのだ。この場合ブルジョアジーの人々が、どれだけ民衆のために貢献したかは、想像も及ばないものがある。
広津氏に答う (新字新仮名) / 有島武郎(著)
少なくも晩年の作品の中に現われている色々のものの胚子はいしがこの短い詩形の中に多分に含まれている事だけは確実である。
夏目先生の俳句と漢詩 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
人間その他多くの動物の胚子はいしは始めは球形である。そうして、その一方が凹入おうにゅうして壺形になるのが発生の第一階段である。
空想日録 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
磁石の作用を考えている中に「感応」の観念の胚子はいし、「力の場」「指力線」などの考えの萌芽ほうがらしいものも見られる。
ルクレチウスと科学 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
それで垣根かきねのすみや木の下へ「虫のお墓」を築いて花を供えたりして、そういう場合におとなの味わう機微な感情の胚子はいしに類したものを味わっているらしく見える。
芝刈り (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
物理学者や化学者は物質をり砕いて原子の内部に運転する電子の系統を探っている。そうして同一物質の原子の中にあるる「個性」の胚子はいしを認めんとしているものもある。
春六題 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
それを握んで明るみへ引出して展開させるとそこからまた次に来る世界の胚子はいしが生れる。
断片(Ⅱ) (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
生命の胚子はいしは結局原子そのものに付与するのが合理的であるという考えを述べておいた。
ルクレチウスと科学 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)