肥満女ふとっちょ)” の例文
旧字:肥滿女
肥満女ふとっちょの女中などは、失礼無躾ぶしつけ構っちゃいられん。膚脱はだぬぎの大汗を掻いて冬瓜とうがんの膝で乗上っても、その胸の悪玉に突離つッぱなされて、素転すてんころりと倒れる。
星女郎 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
娘はこの肥満女ふとっちょに、のしのし隅っこへ推着おッつけられて、可恐おそろしく見勝手が悪くなった。ああ、可哀そうにと思う。ちょうど、その身体からだが、舞台と私との中垣になったもんだからね。
南地心中 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
あとは散々ちりぢりである。代診を養子に取立ててあったのが、成上りのその肥満女ふとっちょと、家蔵いえくらを売って行方知れず、……下男下女、薬局のともがらまで。勝手につかみ取りの、ふくろうに枯葉で散り散りばらばら。
茸の舞姫 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
夢中になって、芝居を見ながら、旦那がわめくたびに、はっとするそうで、みんなが申合わせた形で、ふらりと手を挙げる。……片手をだよ。……こりゃ、私の前をふさいだ肥満女ふとっちょも同じく遣った。
南地心中 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
……知らぬ間に肥満女ふとっちょの込入ったのと、振向いた娘の顔とを等分に見較べて(和女あんたきまりが悪いやろ。そしたらわしが方へ来てあがりなはるか。ああ、そうしなはれ、)と莞爾々々にこにこ笑う、気のい男さ。
南地心中 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)