羈旅きりょ)” の例文
無季の句のうちに神祇じんぎ釈教しゃっきょう、恋、無常、疾病、羈旅きりょ等があって、人間生活を縦横に謡うが、それを点綴てんていして季の句が過半数を占めておる。
俳句への道 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
太鼓の音が、日夜微妙の天楽を奏し、羈旅きりょの人々を慰めるという、いわゆる今日での芸者町であった。
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
その中に、従者五十人ばかりを連れ、羈旅きりょ華やかな一行が、或る時、駅館の門に着いた。
三国志:04 草莽の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
鉄道の便宜は近世に生れたわれわれの感情から全く羈旅きりょとよぶ純朴なる悲哀の詩情を奪去うばいさった如く、橋梁はまた遠からず近世の都市より渡船なる古めかしいゆるやかな情趣を取除いてしまうであろう。
余は是れ羈旅きりょの卒、牛馬のそう初尋寺次逢僧はじめてらをたづねついでそうにあひ庭前徘徊ていぜんにはいくわいし灯下談話とうかにだんわす、とあるので、羈旅牛馬の二句は在俗の時のことのようにも想われるが、庭前灯下の二句は何様どうも行脚修業中のこととも想われる。
連環記 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
仮りにその歌集が五冊あるものとしますと、初めの二冊が四季の部で、あと二冊が恋の部で、残り一冊が羈旅きりょの部、無常の部などの雑居というような始末であります。
俳句とはどんなものか (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
よそから来た羈旅きりょの臣ではない、譜代ふだいも譜代、家康がまだはなみずを垂らしていた幼少から、八歳にして、今川家の質子ちしにとられていた時も、ずっと、側を離れずに来た糟糠そうこうの忠臣である。
新書太閤記:11 第十一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)