もやい)” の例文
背中一面に一人は菊慈童きくじどう、一人は般若はんにゃの面の刺青ほりものをした船頭がもやいを解くと共にとんと一突ひとつき桟橋さんばしからへさきを突放すと、一同を乗せた屋根船は丁度今がさかり上汐あげしおに送られ
散柳窓夕栄 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
争い合った動揺で、もやいの綱が解けたのでしょう、舟は知らぬ間に砂利場じゃりばの岸を離れて、鳥越川の川口から満々たる大川の中流に押し出されて、しもへ下へと流されていつつあるのでした。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
朝凪あさなぎの海、おだやかに、真砂まさごを拾うばかりなれば、もやいも結ばずただよわせたのに、呑気のんきにごろりと大の字なりかじを枕の邯鄲子かんたんし、太い眉の秀でたのと、鼻筋の通ったのが、真向まのけざまの寝顔である。
悪獣篇 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)