紙漉かみすき)” の例文
そのくせ、彼方あなた紙漉かみすき小屋の附近では、何かわめき合う声も聞こえ、乱れ飛ぶ提灯の影もただ事ならず見えますのに——。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
この捕虜の中に唐の紙漉かみすき職工がありましたから、サラセンの大將は、この紙漉職工を使役して、中央アジアのサマルカンドといふ都で、初めて製紙工場を建て
東洋人の発明 (旧字旧仮名) / 桑原隲蔵(著)
しかし越前の名を高めたのは、何よりも紙漉かみすきわざであります。武生近くの岡本おかもと村がその中心をなします。立派な厚みのある「奉書ほうしょ」はここのを第一といいます。
手仕事の日本 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
“田原町一丁目——此地はと千束郷広沢新田の内にして浅草寺領の田畝に係り、居民農隙を以て紙漉かみすきを業とし、紙漉町と称せしが、後漸く人家稠密となるに及び、三箇所に分ち
浅草風土記 (新字新仮名) / 久保田万太郎(著)
郷士の、紙漉かみすき武士の、土百姓のと、さげすまれておるが、器量の点でなら、家中、誰が吾々若者に歯が立つ。わしは、必ずしも、栄達を望まんが、そういう輩に十分の器量を見せてやりたい。
南国太平記 (新字新仮名) / 直木三十五(著)
兼ね備えたこれらの紙漉かみすき機械のあらゆる細部の機関、細きもの、ひたたきもの、円き、綱状の、腕型の、筒の、棒の、針金の、調革しらべかわの、それらがひとしく動いて、光って、流れて、揺れて、廻って
フレップ・トリップ (新字新仮名) / 北原白秋(著)
幸にも紙業組合理事李廷善氏の案内を受けて紙漉かみすきの仕事場を見ることが出来た。場所は上蜈里と言い、主として温突オンドル用の原紙を作る。その作業場は見ものであった。
全羅紀行 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
などと干し場の紙漉かみすき職人が仕事の手をやめて騒いでいる彼方を見ますと、今、小川の縁で駕を捨てた押絵のような娘が、その声に顔を反向そむけて、小川の水ぎわ大川河岸おおかわがしの方へ
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
石州半紙せきしゅうはんし」とか単に「石州」とかいう名は、どんな紙漉かみすきの本にも出て来るでしょう。もともと日本の抄紙の歴史を見ますと、この石見が発祥はっしょうの地かと考えられます。
手仕事の日本 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
やがて、辿たどりついた所は、浜町の片端かたはずれ、その辺りまだ空地や空井戸や古池などが多く、大川端をすぐ前にして、四、五軒の紙漉かみすき小屋と、漁師りょうしの家などが散在しているその中の一軒家。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ただ紙漉かみすき町とか紙漉沢とかいう名が残って昔の歴史を語るのみであります。
手仕事の日本 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)