米噛こめか)” の例文
赤くなったのはまず、彼女の長い、幾分あばたのある鼻で、その鼻から眼もとへ、眼のまわりの米噛こめかみへと、その赤がうつった。
嫁入り支度 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
「幽霊も由公にまで馬鹿にされるくらいだから幅はかない訳さね」と余のみ上げを米噛こめかみのあたりからぞきりと切り落す。
琴のそら音 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
が、眼のまわりのかさを見ても、何か苦労をこらえている事は、多少想像が出来ないでもない。そう云えば病的な気がするくらい、米噛こめかみにも静脈じょうみゃくが浮き出している。
(新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
米噛こめかみという名称は、まだ記憶せられているにもかかわらず、それを意識する機会は絶無になりかけている。色々柔かい食物が増加したためばかりでもないらしい。
木綿以前の事 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
父の米噛こめかみには、太い青筋が浮いてゐた。泥鰌ひげは、事の成行きに仰天したらしく、いそいでゐざり戻る拍子に、母が大切にしてゐた九谷の茶碗を引つくり返した。
少年 (新字旧仮名) / 神西清(著)
彼が茶の間から出て行くと、米噛こめかみに即効紙そっこうしを貼ったお絹は、両袖に胸をいたまま、忍び足にこちらへはいって来た。そうして洋一の立った跡へ、薄ら寒そうにちゃんと坐った。
お律と子等と (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)