わな)” の例文
または元値もとねを損して安物を売る等、様々さまざまの手段を用いてこれに近づくときは、役人は知らずらずして賄賂わいろの甘きわなおちいらざるを得ず。
旧藩情 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
「ウム、僕にもどうもせないんだ。まるで、わなの中を歩いているような気がするよ」と法水にも錯乱した様子が見えると
黒死館殺人事件 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
まるでわなにかかったきつねでも見るように、男も女も折り重なって、憎さげに顔を覗きこもうとするのでございます。
邪宗門 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
自分の蟇口がなくなったというわなを構えて、わたしをその無実の罪に陥れ、自分からわたしというものを有無を言わせずに引き裂こうとしたのでございました。
錯覚の拷問室 (新字新仮名) / 佐左木俊郎(著)
そして相良氏のつくったわなに、うまくかかってしまいました。松風号は風間氏の遺骸いがいを載せたまま尚も航空をつづけたのです。其の行方は地球上の何処にも発見せられなかったようでした。
空中墳墓 (新字新仮名) / 海野十三(著)
海上の沸きたちかへる底見ればひろきわなあり
その仔鹿かよは、まだ一歳たらずの犬ほどの大きさのもので、わなに挾まれた前足の二本が、関節の所で砕かれてい、かえって反対のほうに曲ったまま硬ばっていた。
白蟻 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
その時の平太夫の姿と申しましたら、とんとわなにでもかかった狐のように、牙ばかりむき出して、まだ未練らしくあえぎながら、身悶えしていたそうでございます。
邪宗門 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)