おとな)” の例文
新字:
頭を撫でても耳を引張つても、犬は目を細くして唯おとなしくしてゐる。莨の煙を顏に吹かけても、僅かに鼻をふんふんいはす許り。
散文詩 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
蛇苺へびいちご芍藥しやくやくゆきした、もつとおとなしい隱立かくしだてよりも、おまへたちのはうがわたしはすきだ。ほろんだ花よ、むかしの花よ。
牧羊神 (旧字旧仮名) / 上田敏(著)
第一、あの男は一寸見たところぢやさうでもないが、あれで實におとなしい人間なんだ。醉つ拂ふことだつてめつたにないしさ。どうかすると一寸強情にはなるが、心は實に優しいもんだ。
それに又渠は、其國訛りを出すと妙に言語がおとなしく聞える樣な氣がするので、目上の者の前へ出ると殊更「ねす」を澤山使ふ癖があつた。
病院の窓 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
呍咐いひつかつた通り云ふとおとなしく歸つたのよ。それから主婦さんと私と二人で散々揶揄からかつてやつたら、マア野村さん酷い事云つたの。
病院の窓 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
おとなしい字でどんな事件でも相應に要領を書きこなしてあるが、其の代り、これといふ新しみも、奇拔なところもない。
我等の一団と彼 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
「お定ツ子はおとなしくてなう。」と言はれる度、今も昔も顏を染めては、「おら知らねえす。」と人の後に隱れる。
天鵞絨 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
私は聞えぬ位に「ハイ」と答へて叩頭おじぎをすると、先生は私の頭を撫でて、「お前は餘りおとなし過ぎる。」と言つた、そして卓子テーブルの上のお盆から、麥煎餅を三枚取つて下すつたが
二筋の血 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)