直訴じきそ)” の例文
これが家中に知れては、当然、異論も出て、きき届けられるわけもないという点まで考えて、この直訴じきそをなしたものである。
黒田如水 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
お前は子供だからそう簡単に考えるけれども、大人はそうは考えない。直訴じきそはまかりまちがえば命とりじゃ。めっそうもないこと。やめろ。やめろ。
ロマネスク (新字新仮名) / 太宰治(著)
二人はそこで相談したが周の無実の罪を明らかにするには天子に直訴じきそするより他に道がなかった。周はいった。
成仙 (新字新仮名) / 蒲 松齢(著)
一人ひとり直訴じきそをしたもののあったことを言い出し、自身でその現場を目撃したわけではないが、往来ゆききの人のうわさにそれを聞いて気狂いと思って逃げ帰ったという。
夜明け前:04 第二部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
場主に直訴じきそがましい事をしてはならぬ事、掠奪りゃくだつ農業をしてはならぬ事、それから云々、それから云々。
カインの末裔 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
「大変だ、大変だ。事務所の人は誰かいないか。田中さんが直訴じきそをした」
渡良瀬川 (新字新仮名) / 大鹿卓(著)
船頭は、余憤堪え難き風情ふぜいで、駒井へ直訴じきそに来たものらしい。
大菩薩峠:34 白雲の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
そこでもいけなければ都へ行って、おそれながらと、大官のお輿こし直訴じきそしてでも、このかたきはきっと取ってみせずにおくもんか
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
宗吾郎が、いよいよ直訴じきそを決意して、雪の日に旅立つ。わが家の格子窓こうしまどから、子供らが顔を出して、別れを惜しむ。ととさまえのう、と口々に泣いて父を呼ぶ。
(新字新仮名) / 太宰治(著)
吉良殿のしるしを、泉岳寺の君前に手向たむけてから後、松平伯耆守まつだいらほうきのかみやしき直訴じきそして、公儀の処分を待ったのである。
べんがら炬燵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ただ、その冤罪むじつを訴え出る道と、時刻の猶予もなきために、お役違いとは存じながら、直訴じきその矢文、その大罪は、何とぞおゆるしのほどを願わしゅう存じまする
牢獄の花嫁 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
このうえは関東へ下って、問注所の人々をうごかすか、鎌倉殿へ直訴じきそしてもとまでの決心をほのめかした。
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)