盲人もうじん)” の例文
父はこの日当りの好いしかし茶がかった小座敷で、初めてその盲人もうじんに会った時、ちょっと何と云って好いか分らなかったそうである。
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
高い三の糸がしきりに響く。おとするものは——アと歌って、盲人もうじんは首をひょいと前につき出し顔をしかめて
深川の唄 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
かつて佐藤春夫が云ったことに聾者ろうしゃ愚人ぐじんのように見え盲人もうじん賢者けんじゃのように見えるという説があった。
春琴抄 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
先年手打にした盲人もうじん宗悦が、骨と皮ばかりに痩せた手を膝にして、恨めしそうに見えぬ眼をまだらに開いて、斯う乗出した時は、深見新左衞門は酒のえいめ、ゾッと総毛だって
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
「ナニ、矢の倉の方へ逃げた? それをお前は見たのか、お前は盲人もうじんではないか」
大菩薩峠:18 安房の国の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
取り分けいまだにおもい出すのは、自分が四つか五つのおり、島の内の家の奥の間で、色の白い眼元のすずしい上品な町方まちかたの女房と、盲人もうじん検校けんぎょうとがこと三味線しゃみせんを合わせていた、———その
吉野葛 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
すると女は始めて女らしい表情をおもてたたえて、すがりつくように父をとめた。そうしていつ何日いつかどこで○○が自分を見たのかと聞いた。父は例の有楽座の事を包みかくさず盲人もうじんに話して聞かせた。
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)