目眩めまぐる)” の例文
目眩めまぐるしい戦国時代に身をおきながら一生を費して「天狗の夢」に耽り続けて、遂に身を滅した憐れな夢想家として一笑に附せられたが
熱い風 (新字旧仮名) / 牧野信一(著)
日本橋にほんばしを通る人の数は、一ぷんに何百か知らぬ。もし橋畔きょうはんに立って、行く人の心にわだかまる葛藤かっとうを一々に聞き得たならば、浮世うきよ目眩めまぐるしくて生きづらかろう。
草枕 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
侍が士族となり、百姓が平民になつて、世の中は目眩めまぐるしいほどに変つて行つた。実力を持つた百姓町人が世に出て、扶持ふちを失つた士族が零落して行くあはれなさまをも見た。
(新字旧仮名) / 田山花袋(著)
ただガヤガヤと目眩めまぐるしく雑踏して、白昼夢のように取り留めもない騒がしさばかりです。
墓が呼んでいる (新字新仮名) / 橘外男(著)
しかし彼女はそうして目眩めまぐるしい影像イメジを一貫している或物を心のうちに認めた。もしくはその或物が根調こんちょうで、そうした断片的な影像が眼の前に飛び廻るのだとも云えた。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
そして、人形と滝尾の姿を想像してゐると、雪江は急にむせつぽいやうな目眩めまぐるしさを覚へた。
夜の奇蹟 (新字旧仮名) / 牧野信一(著)
そして目眩めまぐるしく甘美な陶酔に誘はれながら得体の知れぬ烈しい嫉妬感に襲はれた。
南風譜 (新字旧仮名) / 牧野信一(著)
目眩めまぐるしく浮きつ沈みつしてゐるばかりで、うつゝの言葉などは何でも関はなかつた。
小川の流れ (新字旧仮名) / 牧野信一(著)
目眩めまぐるしく、とうとうと流れて止まなかつたが、その真ン中の動かぬゴー・ストツプの上で、飽くまでも修繕の仕事に没頭してゐる係員のシヤツ一枚の姿が、夢幻的に、巨大な蛾のやうに見へた。
街上スケツチ (新字旧仮名) / 牧野信一(著)