畸形児きけいじ)” の例文
私のあらわした文学論はその記念というよりもむしろ失敗の亡骸なきがらです。しかも畸形児きけいじの亡骸です。あるいは立派に建設されないうちに地震じしんたおされた未成市街の廃墟はいきょのようなものです。
私の個人主義 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
此処の親爺は「新青年」の探偵小説の挿絵さしえなどにある、矮小わいしょう体躯たいくに巨大な木槌頭さいづちあたまをした畸形児きけいじ、———あれに感じが似ていると云うことで、貞之助達は前に彼女から屡〻しばしばその描写を聞かされ
細雪:02 中巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
新しい試みをさんとする青年を歓迎する。しかし新しいからいいわけではない。畸形児きけいじとして誕生しつつあるものもある。それはいましむべきである。また必ずしも諦観を諷うのみが俳句ではない。
俳句への道 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
それに反して、お杉は、幼少の時から見ている悪戯いたずら小僧のたけぞうがどうしても頭から離れない。しらくも頭で洟垂はなたれの畸形児きけいじみたいに手脚ばかりヒョロ長かった嬰児あかごの時から知っている武蔵である。
宮本武蔵:04 火の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
質屋の前にまばらなかこいをして、その中に庭木が少し植えてあった。三本の松は、見る影もなく枝を刈り込まれて、ほとんど畸形児きけいじのようになっていたが、どこか見覚みおぼえのあるような心持を私に起させた。
硝子戸の中 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
これ等は開化の業に束縛された畸形児きけいじである。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)