町風まちふう)” の例文
百年は必ずしも長い月日ではないが、文化文政の頃の風俗画などの町風まちふうを見ても、もう今日との著しい違いが見られる。
木綿以前の事 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
やがて橋場のわたしに至るに、渡小屋わたしごやの前(下巻第五図)にはりょうにでも行くらしき町風まちふうの女づれ、農具を肩に煙管きせるくわへたる農夫と茅葺屋根の軒下に行きちがひたり。
江戸芸術論 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
玄人くろうとから見れば素人しろうとは不粋である。自分に近接している「町風まちふう」は「いき」として許されるが、自分から疎隔している「屋敷風」は不意気である。うぶな恋も野暮である。
「いき」の構造 (新字新仮名) / 九鬼周造(著)
私のした本をうで一杯に抱えて、はじけそうな、銀杏返いちょうがえしを見せて振り向きもしないで、町風まちふう内輪うちわながら早足はやあしに歩いて行く後姿なんかを思いながらフイと番地を聞いて置かなかった
秋風 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
その深川ふかがわ吉原よしわらなるとを問わず、あるひは町風まちふうと屋敷風とを論ぜず、天保以後の浮世絵美人は島田崩しまだくずしに小紋こもん二枚重にまいがさねを着たるあり、じれつた結びに半纏はんてんひっかけたるあり、しぼり浴衣ゆかたを着たるあり
江戸芸術論 (新字新仮名) / 永井荷風(著)