猿智慧さるぢえ)” の例文
それで少しは心が慰さもうかと思ったのだ。世間では伊勢殿が悪いという。成程なるほどあの男は奸物かんぶつだ、淫乱だ、私心もある、猿智慧さるぢえもある。
雪の宿り (新字新仮名) / 神西清(著)
「そうだ、これなら大丈夫だいじょうぶ。ねえさるさん、お前は猿智慧さるぢえといって、たいそう利巧りこうだそうだが、案外あんがい馬鹿ばかだなあ。今私が大蛇おろち退治たいじてあげるから、見ていなさいよ」
人形使い (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
へい、人間様だぞ。おのれ、荒神様がついてござる、猿智慧さるぢえだね、打棄うっちゃっておかっせえまし。
草迷宮 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
... 猿智慧さるぢえから割り出した術数と、天来の滑稽趣味と混同されちゃ、コメディーの神様も活眼の士なきを嘆ぜざるを得ざる訳に立ち至りますからな」主人は俯目ふしめになって「どうだか」と云う。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
これは一体、誰の猿智慧さるぢえなんです? ばかばかしくて、見て居られません。どうせ、いやがらせをなさる積りなら、も少し気のきいた事でやって下さい。あなたがたは卑怯ひきょうです。陋劣ろうれつです。
新ハムレット (新字新仮名) / 太宰治(著)
それで少しは心が慰さまうかと思つたのだ。世間では伊勢殿が悪いといふ。成程なるほどあの男は奸物かんぶつだ、淫乱だ、私心もある、猿智慧さるぢえもある。
雪の宿り (新字旧仮名) / 神西清(著)
考えて御覧、どんなに厳重にして守ったって、そりゃ人間の猿智慧さるぢえでするこッた、現にお前さん、多勢黒山のような群集の中で、その観音様を一人で引揚げて来たじゃあないか。
黒百合 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ふたたびあさはかな猿智慧さるぢえを用い、腹掛けなどから銭を取出す事のないように、丸裸になって捜し出せ、銭九文のこらず捜し出すまでは雨の日も風の日も一日も休む事なく河原におもむき
新釈諸国噺 (新字新仮名) / 太宰治(著)