物怪もっけ)” の例文
その怒りは心頭より発したる怒りではなく、癇癪かんしゃくより出でた怒りでしたけれども、この場合怒ることのできたのは物怪もっけの幸いでした。
大菩薩峠:21 無明の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
ロレ はれ、それは物怪もっけ不運ふうんの! 眞實しんじつ重大ぢゅうだい容易ようゐならぬ用向ようむきその書面しょめん、それが等閑なほざりになったうへは、どのやうな一大事だいじ出來でけうもれぬ。
息子に恋慕している娘は、物怪もっけの幸と思っている。そこで二人はおじに二階へ追い上げられる。夜具は一人前しか無い。
ヰタ・セクスアリス (新字新仮名) / 森鴎外(著)
しかしそれが自分達に取ってはむしろ物怪もっけの幸いで、うかうかと館へ帰ったらばどんなことになるかも知れない。かれはここで侍従に出逢ったのを神の助けであるとも思った。
小坂部姫 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
物怪もっけ
だけれど生娘きむすめでいた時より美しくはなっても、醜くはなっていない。その上どうしたのが男に気に入ると云うことは、不為合ふしあわせな目に逢った物怪もっけさいわいに、次第に分かって来ているのである。
(新字新仮名) / 森鴎外(著)
「いや、その傷が物怪もっけの幸いというものだ。我々の眼で見ると愛染明王あいぜんみょうおうすがただ」
大菩薩峠:23 他生の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)