無愛嬌ぶあいきょう)” の例文
三沢はそういう話に興味があるでもなく、また無いでもないような無愛嬌ぶあいきょうな顔をして、ただ「ふん」とか「うん」とか答えていた。
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
どれだけ顔が綺麗きれいでも、この二つのものが欠けていたらゼロです。無愛想だとか、無愛嬌ぶあいきょうだとか、いやな女だ、などといわれるのは、多くそこから起こるのです。
般若心経講義 (新字新仮名) / 高神覚昇(著)
お君というそのめい、すなわち、そこの娘も、年は十六だが、叔母おばに似た性質で、——客の前へ出ては内気で、無愛嬌ぶあいきょうだが、——とんまな両親のしていることがもどかしくッて
耽溺 (新字新仮名) / 岩野泡鳴(著)
という主人あるじの言葉はあいそがあっても一体のふうつきはきわめて無愛嬌ぶあいきょうである。
忘れえぬ人々 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
歯の落ちこぼれた女が無愛嬌ぶあいきょうな表情でこう言いもする。
源氏物語:49 総角 (新字新仮名) / 紫式部(著)
それとは反対に細君の言葉はかえって常よりも少なかった。しかしそれは彼がよく彼女において発見する不平や無愛嬌ぶあいきょうから来る寡言かげんとも違っていた。
道草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
しかし、割合いにすれていない主人のことであるし、またその無愛嬌ぶあいきょうなしがみッつらは持ち前のことであるから、思ったままを言ったのだろうと推察してやれば、僕も多少正直な心になった。
耽溺 (新字新仮名) / 岩野泡鳴(著)
それが分ってからはさほどにも思わなかったが、この時は何だ顔に似合わない無愛嬌ぶあいきょうな奴だなと思った。
坑夫 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
遠慮がなくて親しみだけ持っていた僕は、今まで千代子に対していくら無愛嬌ぶあいきょうに振舞っても差支さしつかえないものとあんみずから許していたのだという事にこの時始めて気がついた。
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
少しは気の毒そうにでもしている事か、乗る権利もない布団の上に、傲然ごうぜんと構えて、丸い無愛嬌ぶあいきょうな眼をぱちつかせて、御前は誰だいと云わぬばかりに鈴木君の顔を見つめている。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
遅くなりましたとも何ともいわない彼女の無愛嬌ぶあいきょうが、彼には気に入らなかった。彼はちょっと振り向いただけで口を利かなかった。するとそれがまた細君の心に暗い影を投げる媒介なかだちとなった。
道草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「そう急いでくるには及ばないさ」と主人は例のごとく無愛嬌ぶあいきょうな事を云う。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
敬太郎は仕方なしに「江戸っ子は無愛嬌ぶあいきょうなものだね」と云って笑い出した。須永も突然おかしくなったと見えて笑い出した。それからあとは二人の気分と同じように、二人の会話も円満に進行した。
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)