みなぎ)” の例文
其処では各の人々がお互にアンディフェランでノンシャランで、各の中に静かな泉をみなぎらせ乍ら、絶えざる細い噴水を各の道に流し流し行き交うてゐる。
群集の人 (新字旧仮名) / 坂口安吾(著)
それでも彼はなお進もうとする、その顔には残酷醜悪な色がみなぎっている。二人の視線ははたと合って、互に屹立きつりつしたまま深讐仇敵しんしゅうきゅうてきのごとくに猛烈に睨み合った。
水晶の栓 (新字新仮名) / モーリス・ルブラン(著)
ギラギラとした逆光線をまともに面上に享けて、大口をあけて叫んでゐる堀口等の表情が、嘗て覚えたこともない獰猛さをみなぎらせて、寧ろ怪奇的に、鬼のやうに滝本の眼にも映つた。
南風譜 (新字旧仮名) / 牧野信一(著)
世界はアナクロニズムにみなぎつたのだ。
小詩論:小林秀雄に (新字旧仮名) / 中原中也(著)
早朝から飴色の陽がみなぎる静かなうらうらとする朝ばかりが続いてゐた。二人は、釣籠井戸から汲まれる冷水で顔を洗ふと、もう家には上らずに蜜柑の樹の蔭で牛乳ミルクだけを飲んで出かけた。
F村での春 (新字旧仮名) / 牧野信一(著)