深奥しんおう)” の例文
旧字:深奧
勃然ぼつぜんとしてその深奥しんおうにして窺知きちすべからざる、巧妙なる、美妙なる、奇妙なる、霊妙なる、麗質を、惜気もなく発揚しおわった。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
悟浄はまた、月の間、この老隠士に侍して、身のまわりの世話を焼きながら、その深奥しんおうな哲学に触れることができた。
悟浄出世 (新字新仮名) / 中島敦(著)
しかしそういう貧しい旅のうちに、人間の真相というものが本当に掴めるのだ、人生の深奥しんおうというものに、かえって触れることができるのだ、有難いものだ。
大菩薩峠:34 白雲の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
人心の狂乱と苦悩を深奥しんおうに抑え、ひたすらな合掌と半眼に一切を耐えてこそ仏と菩薩の像は成立つ。不空羂索観音の有難さもそこにあることは既に述べたとおりである。
大和古寺風物誌 (新字新仮名) / 亀井勝一郎(著)
筆者は此のことで、日頃眷顧けんここうむっている天台宗の某碩学せきがくなどにも尋ね、参考書なども貸して戴いたのであるが、調べ出すといよ/\深奥しんおうで分りにくゝなるばかりである。
少将滋幹の母 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
見ずや、きみ、やかなの鋭き匕首あいくちをもって、骨を削り、肉を裂いて、人性じんせいの機微をき、十七文字で、大自然の深奥しんおうこうという意気込の、先輩ならびに友人に対して済まぬ。
灯明之巻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
しかし「印象明白」ばかりが、必ずしも蕪村の全般的特色ではなく、他にもっと深奥しんおうな詩情の本質していることを、根岸派俳人の定評以来、人々が忘れていることを責めねばならない。
郷愁の詩人 与謝蕪村 (新字新仮名) / 萩原朔太郎(著)
現存の金堂本尊のような丈六の仏体深奥しんおうに秘められて、ひそかに思慕されていたのであろう。
大和古寺風物誌 (新字新仮名) / 亀井勝一郎(著)