檜皮ひわだ)” の例文
「たそがれ、はかまをはいた女官が、院の檜皮ひわだ屋根の上に見えたが、そのうちに御池殿おいけどの(尊氏の住居)のうちへ消えた」
私本太平記:13 黒白帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
姫君は檜皮ひわだ色の紙を重ねて、小さい字で歌を書いたのを、こうがいの端で柱のれ目へ押し込んで置こうと思った。
源氏物語:31 真木柱 (新字新仮名) / 紫式部(著)
家々にある色んな家財道具の類も根こそぎにすっかり空に吹き上げてしまった。屋根を覆っている所の檜皮ひわだ葺板ふきいたの類は丁度冬の頃に木の葉が風に舞い上る様に乱れて空に吹き上げられた。
現代語訳 方丈記 (新字新仮名) / 鴨長明(著)
しかもあの平太夫へいだゆうが、なぜか堀川の御屋形のものをかたきのように憎みまして、その時も梨の花に、うらうらと春日はるびにおっている築地ついじの上から白髪頭しらがあたまあらわして、檜皮ひわだ狩衣かりぎぬの袖をまくりながら
邪宗門 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
草むらの乱れたことはむろんで、檜皮ひわだとかかわらとかが飛び散り、立蔀たてじとみとか透垣すきがきとかが無数に倒れていた。わずかだけさした日光に恨み顔な草の露がきらきらと光っていた。
源氏物語:28 野分 (新字新仮名) / 紫式部(著)
と、殿上でも、舎人とねり蔵人くろうどたちが風にもてあそばれ、てんてこ舞いな姿だった。雨のないのがまだ見つけもので、木の葉まじり、大屋根の檜皮ひわだまでが空に黒いチリのつむじを描きぬいている。
私本太平記:10 風花帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)