棕櫚縄しゅろなわ)” の例文
子守りの家では、亭主に死なれた母親が、棕櫚縄しゅろなわなどをって、多勢の子供を育てていた。お銀はその家の惨めな様子をよく知っていた。
(新字新仮名) / 徳田秋声(著)
ちゃくわと二方をしきった畑の一部を無遠慮に踏み固めて、棕櫚縄しゅろなわ素縄すなわ丸太まるたをからげ組み立てた十数間の高櫓たかやぐらに人は居なかった。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
たヾ、二尺五六寸有らんかと思はれし、棕櫚縄しゅろなわつきの生担いけたごを、座右に備へし男も有りしが、これ等は、一時の出来心とも言ひ難く、罪深き部類の一人なりしなるべし。
東京市騒擾中の釣 (新字旧仮名) / 石井研堂(著)
紺の香のにおう法被はっぴの上から、棕櫚縄しゅろなわを横ちょにむすんで、それへ鋏をさした植木屋のあにイ——見なれない職人が、四、五日前から、この不知火御殿しらぬいごてんといわれた壮麗な司馬の屋敷へはいって
丹下左膳:02 こけ猿の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
「なに、もう駄目でさ。今日もこの歯が一本ぐらぐらになってね、棕櫚縄しゅろなわを咬えるもんだから、稼業だから為方しかたがないようなもんだけれど……。」
(新字新仮名) / 徳田秋声(著)
通りかゝりの百姓衆ひゃくしょうしゅうに、棕櫚縄しゅろなわ蠅頭はえがしらに結ぶ事を教わって、畑中に透籬すいがきを結い、風よけの生籬いけがきにす可く之にうて杉苗を植えた。無論必要もあったが、一は面白味から彼はあらゆる雑役ぞうえきをした。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
上荷には、屋根の修繕に入用のはりがねの二巻三巻、棕櫚縄しゅろなわの十束二十束、風呂敷かけた遠路籠の中には、子供へみやげの煎餅の袋も入って居よう。かみさんの頼んだメリンスの前掛も入って居よう。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)