木斛もっこく)” の例文
冬青樹あおき扇骨木かなめ、八ツ木斛もっこくなぞいう常磐木ときわぎの葉が蝋細工のように輝く。大空は小春の頃にもまして又一層青く澄み渡って見える。
写況雑記 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
久保田さんは一歩半ばかりよろめいて、ひょいと向うを見ると、木斛もっこくの粗らな下枝の茂みの彼方に、高等学校の受験準備をしてる長男の洋太郎が、寝間着姿で縁側に立っていた。
人の国 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
なかなか凝った茶庭になっていたが、大きな木斛もっこくの木かげから、じっと見ると、奥座敷では、今は浅間しく取り乱した、長崎屋が、着物の前もはだからせて、立ち上って、何か大ごえで騒ぐのを
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
新しい僕の家の庭には冬青もちかや木斛もっこく、かくれみの、臘梅ろうばい、八つ手、五葉の松などが植わっていた。僕はそれらの木の中でも特に一本の臘梅を愛した。が、五葉の松だけは何か無気味でならなかった。
追憶 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
時節は十一月のはじめ、小春の日かげに八ツ手の花はきらきらと輝き木斛もっこくの葉は光沢つやを増しかえでは霜にそまり、散るべき木の葉はもう大抵ちってしまった後である。
枯葉の記 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
窓外の木斛もっこくの青葉が、日に照され光って、いやに中江の眼にしみた。
立枯れ (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)