朝暮あけくれ)” の例文
朝暮あけくれ仏勤めはしておいでになるようではあるが、確固とした信念がおありになるとは思えない女の悟りだけでは御仏みほとけの救いの手もおぼつかない
源氏物語:44 匂宮 (新字新仮名) / 紫式部(著)
私に兎角団子坂取材の小説が多いのも、女房が年少の朝暮あけくれを過した土地であると云ふことへの、仄かな郷愁に似た感情の発芽であると云へるかも知れない。
根津遊草 (新字旧仮名) / 正岡容(著)
おことばでよいが——くれぐれも、亡き義朝公、源家ご一門のため、回向えこうおこたらずご自身も、朝暮あけくれに仏道をお励みあって、あっぱれ碩学せきがくとおなりあるようにと……。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
その結婚の事を朝暮あけくれ申すのでございますが——どうっても、うんと云って承知してくれません。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
朝暮あけくれ馴染なじんでいた柳の木の事であれば、伐るにしても、もっと伐りようがあると思うのであるが、家主方にはかえってその情けがなくって、他の木と違って柳の事であれば
俳句はかく解しかく味う (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
朝暮あけくれ只武勇の御嗜みの外は他事なし」。それから、狂言の連歌毘沙門から「小刀は持ちませぬ。たしなみの悪い者共ぢやな」といふ句が引いてある。「武勇の嗜み」とは武芸の修業でありませう。
ただ、主君という絶大な権力者のために身を委して、朝暮あけくれ自分の意志を少しも働かさず、ただ傀儡かいらいのように扱われている女の淋しさが、その不覚な仮睡のうちにまざまざと現れているように思われた。
忠直卿行状記 (新字新仮名) / 菊池寛(著)