日蔽ひおい)” の例文
その風は裳裾もすそたもとひるがえし、甲板の日蔽ひおいをあおち、人語を吹き飛ばして少しも暑熱しょねつを感じささないのであるが、それでもはだえに何となく暖かい。
別府温泉 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
欽吾は腕を右へ真直まっすぐに、日蔽ひおいのかかった椅子いす背頸せくびを握った。せた肩をななめにして、ずるずると机のそばまで引いて来た。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
路地へ這入ると、女は曲るたび毎に、迷わぬようにわたくしの方に振返りながら、やがてどぶにかかった小橋をわたり、軒並一帯に葭簀よしず日蔽ひおいをかけた家の前に立留った。
濹東綺譚 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
欽吾は尻眼に母をじろりとながめた。机の角に引き寄せた椅子の背に、うんと腕の力を入れた。ひらりと紺足袋こんたびが白い日蔽ひおいの上にそろった。揃った紺足袋はすぐ机の上に飛び上る。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
窓のすぐ下は日蔽ひおい葭簀よしずさえぎられているが、溝の向側に並んだ家の二階と、窓口に坐っている女の顔、往ったり来たりする人影、路地一帯の光景は案外遠くの方まで見通すことができる。
濹東綺譚 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
釣堀の日蔽ひおいの下の潮青し
五百五十句 (新字旧仮名) / 高浜虚子(著)
ぬの荒き日蔽ひおいには枝にさがりし