日暦ひごよみ)” の例文
日暦ひごよみを一枚一枚ひっぺがしては、朝の素晴しく威勢のいい石油コンロの唸りを聞いて、熱い茶を啜る事が、とてもさわやかな私の日課となった。
清貧の書 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
露店に並んだ絵葉書えはがき日暦ひごよみ——すべてのものがお君さんの眼には、壮大な恋愛の歓喜をうたいながら、世界のはてまでもきらびやかに続いているかと思われる。
(新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
長火鉢の側の柱にかかった日暦ひごよみの頁に遊びごとや来客などの多い正月一ト月が、幻のようにがれて行った。
(新字新仮名) / 徳田秋声(著)
欄間らんま色硝子いろガラス漆喰しつくひ塗りの壁へ緑色の日の光を映してゐる。板張りの床に散らかつたのはコンデンスド・ミルクの広告であらう。正面の柱には時計の下に大きい日暦ひごよみがかかつてゐる。
あばばばば (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
洋一は立て膝をきながら、日暦ひごよみの上に懸っている、大きな柱時計へ眼を挙げた。
お律と子等と (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
茶の間には長火鉢の上の柱に、ある毛糸屋の広告を兼ねた、大きな日暦ひごよみが懸っている。——そこに髪を切った浅川の叔母が、しきりと耳掻みみかきを使いながら、忘れられたように坐っていた。
お律と子等と (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)