敬畏けいい)” の例文
落ちていた二三の毛筋を拾って、これが狼様の毛に違いないというものがある。狼は時とすると、様の字で敬畏けいいを表象されることがある。
大菩薩峠:21 無明の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
この青年ははなはだ無礼な過言かげんを述べたように見えるが、その実、将軍に対して同情と敬畏けいいの念をあらわす考えであったという。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
それのみならず、先生がベルが鳴って十五分立っても出て来ないのでますます予期から生ずる敬畏けいいの念を増した。
三四郎 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
彼らから鼓吹された宗教上の敬畏けいいの念も、人生にたいする信頼の念も、他人を愛しまた他人から愛せられようという純朴じゅんぼくな欲求も、盲目的ではあるが絶対的である道徳上の信念も。
まことに敬畏けいいする態度で、私は、この手紙一本きりで、あなたから逃げ出す。めくら蜘蛛ぐも、願わくば、小雀こすずめに対して、寛大であられんことを。勿論お作は、誰よりも熱心に愛読します心算つもり、もう一言。
虚構の春 (新字新仮名) / 太宰治(著)
とにかく未知数の人間だけれども、どのみち、まだまだ叩き上げなければものにならないという嫉悪しつお軽侮けいぶとそれから、幾分か敬畏けいいの念も入っているのであります。