我勝われがち)” の例文
「あれだ」と宗近君がゆびさうしろを見ると、白いあわが一町ばかり、か落しにみ合って、谷をかすかな日影を万顆ばんかたま我勝われがちに奪い合っている。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
と、その狭い口から、物の真黒な塊りがドッと廊下へ吐出され、崩れてばらばらの子供になり、我勝われがちに玄関脇の昇降口を目蒐めがけて駈出しながら、口々に何だかわめく。
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
帳場のはたにも囲炉裡いろりきわにも我勝われがちで、なかなか足腰も伸びません位、野陣のじん見るようでござりまする。
伊勢之巻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
生徒は互ひに上草履鳴して、我勝われがちに体操場へと塵埃ほこりの中を急ぐ。やがて男女の教師は受持受持の組を集めた。相図のふえも鳴つた。次第に順を追つて、教師も生徒も動き始めたのである。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)