うつ)” の例文
平太郎にも狐が乗りうつって、あんな乱心の体たらくになったのであると、顔をしかめてささやくものが多かった。
半七捕物帳:24 小女郎狐 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
宮は慄然りつぜんとして振仰ぎしが、荒尾の鋭きまなじりは貫一がうらみうつりたりやと、その見る前に身の措所無おきどころな打竦うちすくみたり。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
そこを鼠が荒すというのは、女像全体にかかる暗示の意味が、おのずから人の情にうつったのかも知れません。
半島一奇抄 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
後夜ごやの加持の時に物怪もののけが人にうつって来て
源氏物語:36 柏木 (新字新仮名) / 紫式部(著)
濡れた女はお春の小さい魂に乗うつつて、自分の隱れたる名を人に告げるのではないかとも思はれた。刀を持つてゐた二人もなんだか薄氣味が惡くなつて來た。
半七捕物帳:01 お文の魂 (旧字旧仮名) / 岡本綺堂(著)
次第に村人ら皆うつらる——「のりつけほうほう。ほうほう。ほうほう」——
多神教 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
悲惨な死を遂げた歌女代の魂が黒い蛇に乗りうつって邪慳な養母を絞め殺したのかと思われて、半七もぞっとした。お化け師匠が蛇に巻き殺された——どう考えてもそれは戦慄すべき出来事であった。
半七捕物帳:05 お化け師匠 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)