憎体にくてい)” の例文
死ニ顔ハドンナ顔ニナルダロウカ。ナルベク今ノ程度ニハ太ッテイテ貰イタイナ。少シ憎体にくていニ見エルクライニ。………
瘋癲老人日記 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
いつぞや厄介の貝六かいろくと赤崎才市へ、変な手紙を持って来た小僧は、この小柄なくせに妙にませた憎体にくていなくせに何処どこか可愛らしい小僧だったことを思い出しました。
大江戸黄金狂 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
兄弟子雷蔵の目の、ギョロリとして青味がかった憎体にくていな顔が、今松の前の闇のなかへヌーッと見えた。
寄席 (新字新仮名) / 正岡容(著)
兄は憎体にくていに云ひ放つたなり、徳蔵にも挨拶も何もせずに、さつさと何処かへ行つてしまひました。
(新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
と青い帽子をずぼらにかぶって、目をぎろぎろと光らせながら、憎体にくてい口振くちぶりで、歯磨を売る。
露肆 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「ざまァみろ。」わざとそう憎体にくていにいったあとで三浦はいった。「おせえてやろうか?」
春泥 (新字新仮名) / 久保田万太郎(著)
お峰ちやんは怖い顔をして睨めておいてほーれ草をぶらさげたまま帰つてゆくのでいつけられはしまいかとこはごは見送つてたらひよいとふりかへつて憎体にくていに腭をつきだしてかけていつた。
銀の匙 (新字旧仮名) / 中勘助(著)
好くもこう憎体にくていな連中だけが寄集って自惚事をしゃべり合っているものだ、こんなところにあの一団が踏み込んだらそれこそ一網打尽の素晴しさであとくされがなくなるだろうに——などと思って
鬼涙村 (新字新仮名) / 牧野信一(著)
とぼけた面相のせいか、どことなくおかし味があって、こんな毒のあることを言っても、いっこう憎体にくていにならないのが不思議。うつむいて、石仏のように黙念としているのを、しり目にかけながら
顎十郎捕物帳:10 野伏大名 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
と其憎体にくていさと云ったら無いので有った。
死剣と生縄 (新字新仮名) / 江見水蔭(著)
舟の中にいるのは、紛れもなく浪人森右門の五十がらみの憎体にくていな顔だったのです。
「どういう訳だか、不思議なもんさね、」と源次郎は憎体にくていな。
湯島詣 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
それを烏がねらつてきて憎体にくていに尻をふつてつつつきまはる。
銀の匙 (新字旧仮名) / 中勘助(著)
顎十郎のいい方はすこし憎体にくていである。
顎十郎捕物帳:04 鎌いたち (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
平次の差出した提灯に照らされたのは、ねんねこ半纏ばんてんを着て耄碌頭巾もうろくずきんを冠り、浅黄の股引ももひきをはいた老人姿ですが、顔を見るとまだほんの三十前後。——毛虫眉のあごの張った少し憎体にくていな男です。
銭形平次捕物控:126 辻斬 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
笑子は憎体にくていに、ふン、と鼻を鳴らし
魔都 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
様子が滅法可愛らしい癖に、言うことは恐ろしく憎体にくていです。
大江戸黄金狂 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
憎体にくていに罵った。
ひどい煙 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)