“恰(さ)” の例文
御子様がないのですから、奥様も恰(さ)も懐しそうに抱〆(だきしめ)て、白い頬をその柔い毛に摺付(すりつけ)て、美しい夢でも眼の前を通るような溶々(とけどけ)とした目付をなさいました。
旧主人 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
私は柄杓(ひしゃく)で水を浴せ掛ると、鶩は恰(さ)も噂好(うわさずき)なお婆さん振(ぶっ)て、泥の中を蹣跚(よろよろ)しながら鳴いて逃げて行きました。
旧主人 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
『あゝ、左(どう)にか右(かう)にか間に合せて置いた。二級懸持ちといふやつは巧くいかないものでねえ。』と言つて、銀之助は恰(さ)も心(しん)から出たやうに笑つて、『時に、君は奈何(どう)する。』
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)