くわう)” の例文
辻車も見あたらねば、ひとりトボ/\と淋しき大路を宿にかへるに、常には似ぬ安けさの我胸に流れ、旅心くわうとして一味の慰楽をむさぼり得たり。
閑天地 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
小さい精神の疲れがくわうとした数分時の微睡びすゐに自分を誘ひ入れた。そこへ
父の死 (新字旧仮名) / 久米正雄(著)
復讐ふくしう跡ありくわうとして血痕けっこん
くわうとして、夢ならず。
海豹と雲 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
自分は唯くわうとして之に見入つた。この心地は、かの我を忘れて魂無何有むかうの境に逍遙さまよふといふ心地ではない。謂はば、東雲の光が骨の中まで沁み込んで、身も心も水の如く透き徹る様な心地だ。
葬列 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)