思做おもひなし)” の例文
混雑する旅人の群にまぎれて、先方さきの二人も亦た時々盗むやうに是方こちらの様子を注意するらしい——まあ、思做おもひなしせゐかして、すくなくとも丑松には左様さうれたのである。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
それでは、せめて、君の愛する其顏だけでも、其儘かはりなくまたと眺められるだらうか。悲しいことには、さういかない。或は思做おもひなしでさうとだまされることはあつても、はかない心の試に過ぎぬ。
落葉 (旧字旧仮名) / レミ・ドゥ・グルモン(著)
われは思做おもひなしにや、そのおもの色のさきより蒼きを覺えたるが、少女を驚さんことのいとほしくて、身を動すことを敢てせざりき。少女は暫し耳をそばだてゝアンジエロにやと呼びぬ。われは覺えず屏息へいそくせり。