怖毛おじけ)” の例文
特に雷霆は狼に似て、猜疑さいぎぶかく、この巨犬には犬奉行の配下もみな怖毛おじけをふるって“犬神”ともよんで敬遠していた。事実、なんど咬まれているか知れないのだった。
私本太平記:01 あしかが帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
サン・モリッツは、豪奢第一ファッショナブルの冬の瑞西スイツルのなかでも最上級のブルジョア向きと見なされている土地である。そのため、大概の人が怖毛おじけをふるって、近処の村落に宿をとる。
踊る地平線:11 白い謝肉祭 (新字新仮名) / 谷譲次(著)
年寄りで醜悪の姥に対しては、範覚以外のどのような男も、怖毛おじけを揮って近寄らなかった。
あさひの鎧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
その眼とどす黒い顔の色とはその顔をぞっと怖毛おじけの立つような気味の悪いものにした。
札木合ジャムカ (すっかり怖毛おじけ立って)いや、貪る鷹のような成吉思汗ジンギスカン軍のいきおいだ。成吉思汗ジンギスカンは、総身あかがねのように鍛えられ、土踏まずや腋の下にさえ、針も通らぬというではないか。
七百あまり打ち殺され、寄せ手はにわかに怖毛おじけ立ち、潮の引くように退いた。
あさひの鎧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
山楂子の実は甘酸あまずっぱい味がして、左程さほどまずくもないそうだけれど、そのほこりだらけなのに怖毛おじけをふるって、私達はとうとう手が出なかった。この山楂子売りはハルビン街上風景の一主要人物である。
踊る地平線:01 踊る地平線 (新字新仮名) / 谷譲次(著)
まだ品物を見ないうちから、身ぶるいするほど怖毛おじけをふるっている。
丹下左膳:02 こけ猿の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)