微茫びぼう)” の例文
輿窓よそうヨリ来路ヲ回顧スレバすなわち島嶼皆烟雨えんう微茫びぼうノ間ニアリ。依依トシテ相送ル者ノ如シ。高城ノ駅ニ到レバすなわち灯既ニ点ズ。コノ夜雨。
下谷叢話 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
それすらもう水煙微茫びぼうの間に見えなくなって、オークランド岡のいただきも地平線の下にしずんでしまった。
少年連盟 (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
飛沫しぶきのなかを、消えあるいは点いて……闇の海上をゆく微茫びぼうたる光があった。その頃は、小雨が太まってき長濤うねりがたかく、へさきは水に没して、両舷をしぶきが洗ってゆく。
潜航艇「鷹の城」 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
またひとしきり煙に和して勢いよく立ち上る火花の行くえを目送みおくれば、大檣たいしょうの上高く星を散らせる秋の夜の空はたたえて、月に淡き銀河一道、微茫びぼうとして白く海より海に流れ入る。
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
東の空にほのぼのと水色の微茫びぼうが棚引いて見え、それがだんだん色づいて来る。
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
夏のの月まるきに乗じて、清水きよみずの堂を徘徊はいかいして、あきらかならぬよるの色をゆかしきもののように、遠くまなこ微茫びぼうの底に放って、幾点の紅灯こうとうに夢のごとくやわらかなる空想をほしいままにわしめたるは
京に着ける夕 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)