待侘まちわ)” の例文
電報はくしの歯を引く如く東京に発せられた。一電は一電よりも急を告げて、帰朝を待侘まちわびる友人知己はその都度々々に胸を躍らした。
二葉亭四迷の一生 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
何時来るかも知れないような春を待侘まちわび、身の行末を案じわずらうような異郷の旅ででもなければ、これほど父の愛を喚起よびおこす事もあるまいかと思われた。
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
それを待侘まちわびているうちに、玄関のけたたましい叫び——人間が一人ころがり込んで、息が絶えてしまったのです。
大菩薩峠:37 恐山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
指折りながら待侘まちわび居たるには引換へて、今と言ふ今、老の眼に思ひも寄らぬ恥辱を見るものかな。
滝口入道 (旧字旧仮名) / 高山樗牛(著)
塚田巡査は先刻せんこくから待侘まちわびていたらしい、暗い中から慌しく進み寄って、の無事を祝した。権次は畚から降り立って、合図の綱を強くくと、上ではおうと答えて、畚をするすると繰上くりあげた。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
こうした周囲まわりの空気の中で、捨吉は待侘まちわびた手紙の返事を受取った。先輩の吉本さんからよこしてくれた返事だ。
桜の実の熟する時 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
舟の出発を待侘まちわびるものは田山白雲一人ではなく、士農工商が一人二人と渡頭へ集まってひっかかる。
大菩薩峠:37 恐山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
喃々のう/\かどを叩きて、今やくると待侘まちわぶれども、内には寂然として聲なし。
滝口入道 (旧字旧仮名) / 高山樗牛(著)
温暖あたたかい雨がポツポツやって来るように成った。来るか来るかと思ってこの雨を待侘まちわびていた心地はなかった。
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
何時来るか何時来るかと思って岸本の待侘まちわびていたような春は、ようやく彼の身にも近づいて来たかと思わせた。
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
子供等は彼の帰りを待侘まちわびて、幾度か停車場まで迎えに出た。北側の草屋根の上には未だ消残った雪が有ったが、それが雨垂のように軒をつたって、溶け始めていた。
家:01 (上) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
丁度三吉は学校の用向を帯びて出京した留守で、家では皆な主人の帰りを待侘まちわびていた。
家:01 (上) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)